
Ever Oasis
*姉妹* Part1
ぶぅん、と大きく横に槍を振ればその風圧だけで周囲の砂が大きく舞い上がる。
そして大きな音と共にそれを岩壁へと打ち付ければベコリと穿たれ亀裂が走る。
(もっと、もっと。もっとよ。もっと強く……)
槍の持ち主は一匹のウア族。この砂漠たる大地に住まう戦闘種族「ケモビト」の内の一匹である。
種族の大部分は、女性で占められており、その姿は人とは程遠く二足歩行のトカゲか竜のよう。
細長い首と、長い手足は闘いにとても適しているがその一方で綺麗に着飾るのが大好きと言う
一面も持つ。目の前のウア族の女は、黒みがかった顔を隠すヴェールで表情こそ見えないが
ヴェール越しに見える赤黒い瞳が不気味に光って居た。
一方その頃、大砂漠唯一のトトのオアシスでは盛大にフェスティバルが
行われて居ようとした。
通称「お洒落フェス」。それは不定期に行われるが、一度開催されるとなると事前に
何故か砂漠の隅々にまで噂があっという間に広まり多くの
来訪客や常連客が押し掛けるのだ。
オアシスの入口に位置する門を潜って、ペンクロウと言う言語を持たぬ不思議な
種族が小さな足を使って歩いて来る。彼らは一様に背中に寝袋や荷物一式を背負って
はるばる砂漠を渡って来る。
フクロウかペンギンにも似た彼らの数は10匹、20匹と段々増えて来るのだった。
その中に混じってウア族の女戦士も目を輝かせながら数々のお洒落用商品に
思いを馳せ心を弾ませながらやって来る。
「ふふふ~。今日はどんな品を見せて貰えるのかしら~?」
その中の1匹、ヘロデアと言う名前の女戦士がたちまちにハナミセの前に
移動して長く続く行列にきちんと並ぶのだ。
彼女が並んで居るハナミセは、タネビトの1人セシェンの開いている
「ひざ掛け屋」だ。
このハナミセは、その名前の通り三種類のひざ掛けをメイン商品として扱っており
その美しい模様と肌触りは多くの客に高く評価されていた。
ちらりと前方を見ると大分行列が進み店の中が見えて来た。
以前に購入した「クモ糸のひざ掛け」をヘロデアはとても気に入り
他にも新商品は無いかと期待に胸を膨らませている。
「あら、また来てくださったのね。ヘロデアさん……でしたっけ?」
中から招くように穏やかな女性の声が聞こえてくれば
そちらに視線を集中させるといつの間にか自分の番になっていた。
「名前を憶えて居てくれたのは嬉しいわ~。ありがとうね~。
この前買わせて貰ったひざ掛け、家で重宝しているわ~。」
何処となく間延びしたようなのんびりした口調でヘロデアがそう告げれば
セシェンは、ふふっと上品に笑ってはとても嬉しそうにしていた。
目の前には数々の商品。丈夫な蔓草とカオスモンスターの体毛が
織り込まれ薄い紫の染料で染められた物。他にも蜘蛛モンスターから取れた
特殊な縦糸と細い小枝から織られた物もある。
緑、桃色、青と色彩はシンプルながらも店先に溢れんばかりに置かれている
多くの商品はヘロデアや他の客の心を掴むのには十分過ぎる程の出来栄えだった。