
だんじょん商店会~伝説の剣始めました~
☆猫とサララ・前編☆
朝起きるとサララは猫になっていた。
『にゃぐるぁー。』
かすれた声で欠伸を漏らすと何時もどおりベッドから
立ち上がろうとしてそのままとすんとベットの下へと
転げ落ち上手に床に着地する。
『・・・!?』
視界が何時もより狭い、そして部屋の家具が
凄く大きく見える。
これは一体何事だろう。
そしてベットの横に置いてある全身を写す鏡を
覗き込む。
そこには、一匹の猫が写って居た。
薄い茶色のふわふわの毛並み、そして白のくつ下。
目の上の毛は瞳を隠すように
ふわりと垂れ下がっていた。
『……!』
内心吃驚はしたものの、
騒いでもどうにかなりそうも無かったので
大人しくベッドの上にぴょんっと飛び乗り
そして自分のパートナーである黒猫のチョコの
方を見た。
チョコは、すやすやと寝息を立てて
ベッドの上、ちょうど足元の方で寝ていた。
のん気な物である。
自分も、僅かばかりの眠気を感じ
今起きたばかりにもかかわらず丸まって枕近くですぐに寝てしまう。
そのまま一時間程経った頃合。
チョコが呼ぶ声でサララは目を覚ました。
「ねぇ、サララ、何で猫になってるんだよ。」
じとっとした目でサララを見るチョコ。
サララはぱちり、と目を覚まし
その声にふるふると首を振って
自分でも訳が分からないと言う風な
素振りを見せる。
「分からないって僕も意味分からないよ。
ともかく、これからどうするの。」
『……。』
その返答に詰まって暫し考え込む。
しかし良いアイディアは直ぐには出ない。
少なくとも、この姿のままお店を開くと言うのは
問題がある気がした。言葉も通じないだろうし。
だから屋根裏部屋からぴょいっと飛び出て、
そのままだんじょん堂の外へと歩き出す。
とりあえず、街を散策すれば解決方法も
見つかるだろう、と。
店から出るとすぐ様誰かとぶつかりそうになった。
しかも、自分から見てかなり巨大な人間に、だ。
「わわっ、吃驚した。あれ、見かけない猫さんですね?
ボクは勇者アスカ。魔王について何か知りませんか?」
なんていつもの口上が聞こえたから相変わらずの
その言葉や態度がアスカらしいと思いながらも
ちょこんと首を傾げて見せる。
『にゃぁ!』
一声鳴くと、サララは自分の毛を軽く毛づくろいするように
ぺろぺろ舐めて見せた。
どうやらこの体だと自然に猫の仕草が身についているらしい。
じーっとこちらの返答を待つようにして身を乗り出す
アスカはやがて『ん?』と首を傾け
やがてぽん!と左の掌の上に右拳を置くようにした。
「だんじょん堂から出て来たってことは
あれですか。もしかしてサララさんの所に
新しい猫が!?それともチョコさんの
恋人ですか?
素敵ですね。では君のご主人と恋人さんに
よろしくです!ボクは朝の修行に出かけますので。」
そう言うとたたたっとすごい速さで引き返していく。
先ほどだんじょん堂に入ろうとしていたし、
今のは明らかに買い物に来て居たように見えたのだが。
サララのお店の窓は閉まりしん、とした朝の空気が
あるばかり。
もしかして、開店待ちでもしてくれるつもりで
来たのだろうか?
とりあえず慌しく去っていったアスカ
の背中を見送るとその足で商人ガメッツの
店・・・商店会本部へととことこと歩いていく。
正面にあるドアからするりと中に入り込むと
中には見慣れた老人、ガメッツの姿が。
『にゃあー…!』
言葉は出ない。
喉から出るのは、猫の鳴き声ばかりである。
ガメッツは視線を下の方へやると、眉をしかめて
こちらを見た。
「猫は商売に関係ないだろう。さっさと何処かへ行くんだ。」
しっしと邪険に追い払われ、サララは慌てて
たたたっと来た道を戻っていった。
これからどうしよう。
自分はずうっと猫のままなのか?
ふるふる、と軽く首を振りつつ
サララは朝食を食べていない事に気が付く。
ぐ、ぐぅ~~~~っ……
心なしか何時もより小さな腹の音が鳴る。
「お腹空いたの?サララ。僕のご飯はあげないよ。」
そう、チョコが厳しい言葉を掛けてきたものだから
反抗的な瞳で彼を見返す。
『………!』
「えっ?僕のご飯なんか要らない?自分で探すって?
良い心がけだね。」
『……。』
チョコに意思は伝わったもののさて今から食べ物を探すとなると、
野良猫然とした自分にとっては厳しい事かもしれなかった。
視線をふと路地裏へとやると、一匹のやけに偉そうな痩せた猫が
ゆっくりと歩いていた。
『……。』
サララはその猫を追いかけるようにして後を付いて行く。
そうして居ると前方を歩く猫が振り返り突然声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、我輩は今から食事に行くんだ。
一緒に来るかい?」
『……!!』