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大正もののけ異聞録

創作小説其の四 第一節
【真奈井四季と八雲編~神話~の巻】

大正の世、とある石碑の前。
四季は、ちらちらと雪の粉のように
舞い上がる多くの光達を眺めていた。
何故だろう、この場所に居ると非常に心が落ち着く。
白く輝く光の玉を静かに見上げながら、四季は
ふぅ、と軽く深呼吸した。
何処か清浄にも思える透き通った空気。
この雰囲気は明けたばかりの年の新しい神聖な空気に
僅かに似ている。

「あっ、四季さん!こんな所で何をしているんですか?」

 
静寂を破り、この地に誰か訪れたようだ。
そちらを見るまでもなく、声で相手の事が分かり
四季は口元を緩く持ち上げて柔らかな微笑みをみせる。
目の前には、目深に帽子をかぶり、赤と白の格子模様の
マフラーを巻いた少年の姿があった。

 
「八雲君、こんにちは。ここは落ち着く場所だなって思って
寛いで居た所なんです。」

「へぇ…寛いで、って何だか面白いですね。
ここはモノノケのお墓なのに。」

「えっ、お墓…?」

 
きょとんとした風に四季が八雲の言葉を反芻する。

 
お墓。
死者の眠る場所。
静寂の中で舞う光は、魂そのものであったのだ。

 
「ここは、多々良塚(たたらづか)って言うんです。
自分の役目を全うした、
モノノケ達が還る場所なんです。」

 
八雲は、そんな四季の様子を眺めると淡々と説明し始めた。
神妙な顔つきをしたその視線を追うと、八雲は黙って
石碑を見上げている。
彼のその瞳の奥には尊敬の色とそして一抹の
悲しみのような物が見えた。

 
「…多々良塚ですか。」
「はい、多々良と言うのは昔昔大昔にこの地に
降臨された神様の名前です。
多々良様は、地を踏み固めて大地を作り、大きな手で地面を掘り湖や川
を作りました。
今この大地があるのは全て多々良様の行いのおかげ。
そして大地を形作った多々良様はその次に
モノノケを産んだんです。」

「……!では、モノノケというのはまさか。」

 
口元に手を当てて驚く四季にこく、と静かに首を
縦に振って頷き肯定する八雲。

 
「そう、モノノケとは多々良様の子孫。つまり
神の子供という事になりますね。」

 
だから、モノノケは人間よりも、
はるかに体躯が発達し力が強く風や炎、雪や土を
操る異能の力を持っている。
半人半妖である(犬神とのハーフである)
八雲にもその力が半分ある。
しかし、これは古い古い伝承で、モノノケの中にはその言い伝えを
最早信じていない者も居た。
そして、今の世では人間を面白半分に
化かしたり驚かせたりして
遊ぶモノノケも少なくない。
 

「多々良様は長い時を経て、幽異界と言う元居た
世界へと昇天されました。
その時、モノノケ達にこう言い残して…。」

「……。」

「霊止(ひと)を慈しみ、時には叱り時にはあやし…
その行く末を長く見守ってやりなさいと。」

4-1: ようこそ!

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