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大正もののけ異聞録

創作小説其の二 第一節

【鴨居俊祐と狗津葉編~ハンバーグ出来たよ!~の巻】

大正の世、とある峠。

二重兼と人は呼ぶ。

そこに一軒のあばら家があった。

そのあばら家の前に佇む少女とイタチが一匹。

よく見るとイタチは尻尾の先が鎌状になっており、

普通のイタチとは違うようにも見える。

見る人が見ればそのイタチは「鎌イタチ」と

呼ばれるモノノケである事が分かるだろう。

少女は一生懸命手元の「何か」を手で丸めて

居た。


そしておもむろに、目の前でパチパチと爆ぜていた

焚き火の中にその物体を大きな葉で包んで、放り込む。

にまり、と会心の笑みを浮かべて少女が叫ぶ。


「やぁ~~~っと出来た。」


その声に反応して鎌イタチがやれやれ、と言った

呆れ顔で尋ねる。


「おいおい、今度は何をやらかしたんだ?」

「失礼だね!狗津葉特製の料理を作っていたの!」

「料理…?お前料理なんて出来たっけか。」


とぼけた様に、そう返す鎌イタチにどうやら

「狗津葉(くずは)」と言う名前らしい少女が

むくれて答える。


「何事も挑戦だよ。

で、出来上がったら当然茂平(もへい)が試食してくれるよね!」

「えーーーーっ、勘弁してくれよ。」


心底嫌そうに眉をしかめる茂平と呼ばれたモノノケ。

ふいに、その耳がぴんと鋭敏に人の気配を感じ取る。

モノノケは闇に生きる者。

人の影に潜む存在。

普通の人間がもしやって来たら、巧みに隠れなければいけない。

だからこそ、その聴覚で的確に素早く気配を捉える。

近づいて来るのは、一人の人間…おそらくは男。

慌てて隠れようとあばら家に足を踏み入れかけたその時、

狗津葉もその気配の主を察知して、

振り向き、ぱぁっと顔を輝かせる。


「鴨居さん!丁度いい所に!」


二重兼に足を踏み入れたのは、鴨居俊祐だった。

狗津葉の目の前の焚き火がぱちりと音を立てる。

葉で包まれたそれは香ばしい肉の焼ける匂いがしていた。


「…何だ。お前か。」


鴨居は、狗津葉の姿を確認すると、

近くに立っていた地蔵に手を合わせた。

そして、地蔵に「おむすび」を1個供える。

それを見ながら狗津葉は、期待の眼差しをしながら言う。


「ねぇ。鴨居さん。食べてくれるよね?狗津葉特製はんばぁぐ!」

2-1: ようこそ!

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