
大正もののけ異聞録
創作小説其の二 第二節
【鴨居俊祐と狗津葉編~ハンバーグ出来たよ!~の巻】
焚き火の中の葉で包まれた物を木の棒で突っついて取り出すと、
慎重にその中を確かめる。
その葉の中から出てきたのはあつあつの、黒い塊。
そう、黒くて丸い何か。(恐らくは、肉の。)
げっと目を剥いて茂平が怖々その物体を
見つめている。
「ハンバーグ?もしかしてお前が作ったのか?」
下に少しずり下がった眼鏡をくい、と元の位置に
戻して狗津葉が大切そうに
持っている葉の上の黒い物体を訝しげに見ては鴨居は問うた。
「そうだよ!松元の洋食屋さんで食べたはんばぁぐ!
あれ、美味しいよねー。
で、あたしも見よう見まねで作ってみたんだ。
ほら。」
どこからどう見ても丸っこい黒い塊にしか見えないそれを
鴨居によく見えるように、目の前に持ち上げて見せる。
「…材料は何だ?」
「えーっと、猪の肉と木の実と葉っぱ。」
「……。」
「見た目はあれだけどすっごく美味しい、はず!!」
懇願するような狗津葉の視線に鴨居はすっと、
手を伸ばすと、無言で黒いハンバーグを手に取る。
「わあ、味見してくれるんだね!流石鴨居さん。」
万歳して小躍りしている、狗津葉を前に
鴨居はハンバーグらしき物を一口、口の中に入れる。
そして咀嚼。
…味は意外と悪くない。
と言うか肉の味しかしない。
ハンバーグとは程遠い味と外見だが、
食べ物としては一応食べられるというレベルか。
「げっ、あんた勇気あるな。食べたのか。」
茂平が目を上下にぎょろぎょろと動かしながら、
鴨居の健闘を褒める。
「一つ言わせてもらうと味付けがもうひと工夫欲しい。」
素直に感想を述べる鴨居に、
狗津葉はふんふん、と頷いて見せて
「分かった、味付けだね!」
ふふ、と明るく笑う。
「次は茂平の番だよ!」
半分になったハンバーグを手に持って
茂平に半ば押し付けるようにして
勧める狗津葉。
「俺は食べないぜ!絶対にな。」
急いで逃げ回る茂平、それを追いかける狗津葉…
と言う構図に鴨居は『今日もここは平和だな』と
呑気な事を考えながらゆっくりと踵を返し
元来た道を戻っていくのであった。
やがて日が暮れ、夕刻の時刻。
長い長い影が、茂平と狗津葉の足元に出現する。
すぐに夜がやってくるだろう。
今宵の夜は、百鬼夜行の夜。
モノノケを率いた者同士が、戦いを
繰り広げる血なまぐさい夜。
さて、どちらが勝っても恨みっこなし。
夜の帳に爛々(らんらん)と光るモノノケ達の瞳が見えた。
~終~
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