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大正もののけ異聞録

創作小説 其の三 第一節
【鴨居俊介と鈴音編~オトシモノ~の巻】

大正の世。
永乃。


人通りが多く、幾つもの店舗が並ぶ
洒落た西洋風の街。
街灯が立ち並び今日も路面電車が、
忙しげに走り過ぎる。

そんな中。
ぶらり、ぶらりと町中の道を歩く、和装にコートを羽織った青年鴨井が居た。
赤毛を風になびかせ、大股で街を闊歩していると不意に
前方で見知った後ろ姿を見かけた。
その後ろ姿の腰の辺りには大きく二股に分かれた猫の尻尾が
付いており、頭の上には目立つ白と黒の猫耳が見える。
そして和風の着物と洋装を半々に組み合わせたかのようなど派手な出で立ち。
その猫の特徴を兼ね備えた女の子は百鬼夜行で戦う好敵手で、鈴音と呼ばれるモノノケである。
歩くたびに帯のような物に飾ってある凛凛と鳴る鈴飾りの音色が、こちらにまで響いてくる。
どうやら、前方の甘味処に入ろうとしている相手の様子に特に
気にかけた様子も無く、青年はそこを通り過ぎようとしたが。
ぽとり、とその懐から袋が落ちたのを鴨居は見逃さなかった。
袋に気がつく事無く、甘味処の戸を潜った鈴音の姿が中へと消えると、鴨居は
さっと足早にその袋の前まで来る。
屈んでからそれを手に取ると、硬貨の鳴る音が小さく
響きこれは小銭の入った財布であろう、という事が
想像できた。


「…落し物か。」

 小さく呟くと、鴨居も甘味処の暖簾(のれん)を
潜るのであった。

 
「いらっしゃいませ。」

 

店の元気な看板娘が特上の笑顔で、出迎えてくれる。
さて、鈴音の姿は…と目で探すも一度暖簾を潜ったからには注文もせずに
冷やかしという訳にも行かず
お品書きに目を通しては店員に誘導されるように
奥の席につく。
適当に「ぜんざい」を注文して
注文の品が来るのを黙って待つ。

やがて、店内に鈴音と店員の声が響く。

「お客様、困ります…お支払いはきちんとしていただかないと。」
「なんじゃと、ワシが食い逃げなどするか!
これでもワシはな…ここらでは名の知れたネコマタの長ぞ。
まあ、良い。ともかく不思議な事に財布が無いのじゃ。」


3-1: ようこそ!

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