
Ever Oasis
*愛の行方* Part4
「ハッサーン!」
ホスニーは顔色を青ざめさせながら倒れている彼の元へと行くと
その場にしゃがみ込み脈をはかる。
幸いにも生きているらしく、ホスニーは安堵の息を零すと
耳元で名前を呼んで見る。
「…………ん?」
肩が、動き瞳を開けるとハッサーンはまるで夢でも見て居るかのようなぼうっとした
表情で、次の瞬間には吃驚したように
「ああ、ここでキミに会えるなんて。これは運命に違いない!」
その様子を見てトトとホスニーは顔を見合わせて笑った。
ここまで元気なら心配無いだろう。
「ハッサーン、無事だったのね。」
「オレの得意技死んだ振りでやり過ごしていたのさ。でも、転がって来たモンスターを
きちんと避けきれず足を酷くやられてしまった。
起き上がる事が出来ずに痛みで意識が遠のきこのザマだ。
へへっ、ホスニーさんオレの事見に来てくれたんだな。」
嬉しそうに笑いかけるハッサーンに対しホスニーは顔を真っ赤にする。
ふとその視線が、ハッサーンの何かを握りしめている手へと移る。
何か紙らしきそれを、じっと見て居た。
「ああ、これ?オパールストーンって言う宝石の原石をここに来る途中で見つけたよ。
オレはこう見えても宝飾品のデザイナー兼細工師なんだ。
宝石の事ならお任せさ!で、原石がある所を調べたり位置を地図に記していたり
していたらここに来たのが随分遅くなっちまった。
オアシスを出発してからもう大分経つのかな?」
「二十日近いわよ?てっきりもう死んでいるのかと……」
何だかもう二人の世界と言う感じなのでトトは口出しもせずに二人そっと見守って居た。
腰に提げた袋から塗る傷薬を取り出し、ハッサーンの傷を見ようと
足側に移動する。
ホスニーの肩につかまり、上半身を起こしてハッサーンは大人しく治療を受ける。
「ありがとう、長老さん。そしてホスニーさん。
オレ、傷が治ったらオパールストーンを掘りに行って来るよ。あの綺麗な輝きこそ
ホスニーさんに相応しいプレゼントだ!綺麗な台座を作ってブローチにしても良いし
手頃な大きさのが二つ見つかればイヤリングにしても……」
「良く喋るわね、アナタは私の事しか考えてないようだけど
そんなに……私が好きなの?」
「スープも好きだけどそれ以上にキミが好きだ!
オレはキミにも好きだと
言って貰いたい。恋人同士になりたいんだよ!
この気持ちが伝わるまで、諦めないぜ。」
そのやり取りの間にトトは傷薬を塗り終わり包帯を巻いていた。
「ハッサーン、とりあえずオアシスへ戻るよ?
ここに居てはまだ危険があるかも知れないから。」
トトはそう言うと懐からスカラベがしがみ付いているオーブを取り出した。
スカラベは水の精霊イスナの使い。離れた場所でもトトに精霊の力を送ってくれる神秘の生き物。
そのオーブに祈りを込めると、ふわりと混じりけの無い透明に
透き通った
水がオーブから飛び出し三人を優しく包み込む。
完全に包み込まれた時点で水で出来た道を通る事が出来るようになるのだ。
トンネルのようなそれはオアシスのアクアゲートと繋がって居る。
ハッサーンは初めて利用するそれに不思議そうな面持ちをして運ばれて行く。
水は流れる、オアシスへと。手を軽く横に広げてリラックスした格好の
最中に彼が尋ねる事は、
「オレの気持ちは伝わったかい?ホスニーさん!」
「そうね、私はスープの事しか考えてなかったの。恋愛なんて二の次と
思ってたわ。
だけどスープも私も好きと言ってくれるアナタなら……
悪くないわね。」
「と言う事は、……やった!」
「ふふ、傷が完全に癒えるまで私のハナミセで休んでね。
それでとびっきりの特製スープを毎日飲ませてあげるわ。
見た目はカラフル、味は飲む人次第。私のスープを召し上がれ。」
にっこりと華やかな笑顔でホスニーはそう言うと
そっと手を伸ばしハッサーンの右手を軽く握る。
ぎゅっと握り返したハッサーンは、本当に本当に嬉しそうだった。
そしてトトもまた、そんな二人を暖かく見守り笑っていた。
~終わり~