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Notebook and Pen

サガフロンティア2

†炎の将魔との戦いで†

その男は、メガリスの奥で静かに体から
火を発して燃えて居た――。

己の主(あるじ)たるエッグからの指令は、

「エッグと一体化し、速やかに侵入者『ナイツ一族』を排除せよ」


という物であり、体が燃えて居るのは謂わば
命の炎を燃やしていると言う事なのだ。

ごぉ、ごぉと全身が激しく燃えているにも関わらず
男の纏う衣服は黒くもなっていないし
肌すら焼け焦げても居ない。


ただ静かに時が流れ行く中で男は
――炎の将魔サルゴンは
侵入者を待ち構えていた。

ふと、この時になって自分の中に取り込まれた
仲間の顔が思い浮かぶが
その二人に対して今は同情も憐憫も無い。
ただ、あるのは『弱き者は、強き者の糧となる。それが自然の掟』
と言うエッグの言葉のみである。


サルゴンはかつて、人間として
普通の生活を送り困っている者を助け
仲間と手を取り合って冒険に出ていた。
あのリッチ・ナイツとも冒険を共にした事もある。
だがその記憶は既におぼろげになっており
エッグによって、作り変えられた脳と身体には
不必要な記憶として消えかかっていた。


『――!』


侵入者の気配が色濃くなって来る。
気配は四人。


サルゴンは、燃え盛る身体を隠す事もせず
堂々と彼ら、彼女達が来る方角を睨んで待ち受けていた。


最初に彼の前に姿を現したのは金髪の髪を緩く
後ろで三つ編みにした活発そうな少女。
初対面ではあるが、その特徴的なアニマの波動は
リッチのそれと酷似していた。

「この人、燃えてる!?」

目を見開き、心底驚いた風にこちらを眺めてくる少女に
サルゴンはただ、無表情で答えるのみだ。


「来たな、ナイツとその仲間共。エッグの感じたとおりだな!」


少女の後ろから現れるのは、燃え盛るような赤毛の髪を持つ
恰幅の良い女と弓を持った銀髪の軽薄そうな男。
そして炎の剣と鋼の剣をそれぞれ腰に下げた金髪の長身の男である。
その三人は警戒の視線でこちらを眺めやり
少しも油断しないぞ、と言う風に武器を構えて
すら居たが少女ジニーだけは、違った。

サルゴンを見て、無防備かつ無邪気に
そして心配そうに近づいて来る。
人の心を無くしたサルゴンは、その無防備さが
不可解に感じられた。
皆、自分を恐れ自分の力を警戒し戦いを挑もうと
してくるのにこの少女は何故――と。


だからこそ、次の言葉が出たのかも知れない。
この少女が未来に生きるべき定めの者ならば――
伝え置く事がある。


「今、我がアニマはエッグと一体化しつつある。
我が消え失せる前にお前達に教えておこう。

この世界にメガリスやクヴェルを残した者たち、彼らは遥か昔に滅んだ。
だが、滅びの定めに逆らい、自らのアニマを強力なクヴェルに封じ、
後の世に甦らんとしたものがあった。
封じられたクヴェルを取り出すほどの知恵とアニマの
存在が現れるまでそれは待った」


時は流れ、人が生まれた。
知恵とアニマを得た人の手により、それは甦ったのだ。


その言葉を聞くと、ジニーは思いっきり反発する、
俄かには信じられないと。

「そんなの、過去の亡霊よ。アニマだけ後世に残して蘇るなんて
できっこない。もしこの時代に蘇っても
それはグール<生ける死体>と同じじゃないの!」

ジニーは、その言葉にも動じずサルゴンに言い放つ。


その、通りなのだ――。
その通りであるが故に正論を言い放ったジニーに、
次なる言葉を掛けるのである。


「そうだ、あれは滅ぶべきもの。人の世に居ては
ならないものだ」
 
「それが分かって居て貴方は何故。
今からでも遅くないよ。一緒にあいつを、
エッグを倒そ?」


何処までも、調子を狂わせる少女だ。
最後にはこちらに協力を求めてくるとは。
髪の毛を炎の粉で赤く染めサルゴンは
首を振りその言葉を強く拒絶する。

「そうもいかん。力を得た代償は払わねばならん。
 我もまた、滅ぶべき者なのだ」


「そんな――事って……!」

ジニーは絶句し、呆然としていた。
一方サルゴンの炎は益々燃え盛りその身を
覆い尽くさんとしていた!


「滅ぶべき者なんて何処にも居ないわ。
樹も花も動物も……勿論人間も!
みんな一生懸命生きている。
それなのに、自分からそれを諦めるなんて
おかしい話だよ!
だから、この手を取ってよ!」


右手を前に出し、
ジニーは叫んでいた。
それを止めさせようとするかのように、
仲間の銀髪の男がジニーの肩に手を置く。


「対話の時は終わった。さあ、行動の時だ!」


静かに目を瞑り、サルゴンは
炎の将魔へとその姿を変える――
その姿は人間形態の時よりも遥かに
大きく、そして気品があり
炎の力強さを秘めた一匹のファイアドラゴンそのものであった。
ごう、と燃え盛るブレスを口から一息吐き
猛々しい瞳で見据えるのは先程の少女。

だが、そのドラゴンの口が微かにこう動いたのは気のせいであろうか。


「ありがとう」と。


最期に対話できて良かった、と。

滅び行く定めの者と、これからを生きる者。

その両者は戦う運命であった。
戦うと言う運命は変えられなかったが、それでもこの戦いには
何か意味があったのだろう。

その戦いの決着が付いた時、
サルゴンの魂――アニマは「ノヴァ・ハート」として
ジニーの掌へと収まった。

その炎の石、ノヴァ・ハートは暖かく柔らかな
光を持っていた――、心まで温かくなる程の
その光を感じてジニーは静かに前を向いて涙を零していた。

End





































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