
ルーンファクトリー4二次創作小説
◆探偵エルミナータの事件簿 with レスト◆
ここは、セルフィア城の一室にあるレスト(主人公♂)の部屋。
朝の決まった時間に、レストはアップルパイを自宅のオーブンで焼く。
ふんわりとパイ生地が焼き上がる香り、バターと卵と小麦粉を混ぜたそれは極上の
物だ。何しろレストの牧場でその日の朝に採取したばかりのコケホッホーの卵と
バッファモーのミルクを使った物だからである。小麦粉だけは市販の物ではあるが。
その上で、生地の中に包み込まれて加熱されとろとろに柔らかくなった
あらかじめ砂糖をまぶして煮詰めたリンゴもかなり香ばしい良い匂いなのであった。
レストがアップルパイを焼く理由。
それは……。
「見ーたーわーよ?」
突然部屋の入口の方から聞き覚えのある声がし、レストは振り返った。
そこにはエルフ特有の尖った耳を持ち、水色の薔薇飾りのついた渋めの色の探偵帽を
かぶり、赤く腰までの長さの髪を三つ編みとして後ろに垂らしたスレンダーな女性!
セルフィアの街では知らない者の居ない、「自称」名探偵。
大きな虫眼鏡を片手にじぃーっとレストの方を観察していた!
「何ですか?エルミナータさん。いきなり……。」
特にやましい事等して居ないが、何故か心臓をどきどきとさせながら
レストは困った風に茫然としていた。
「午前定時のアップルパイ、これは事件だわ!」
「えぇっ!?」
突然の言いがかり、果たして何故事件なのか、何の事件かすらも不明だが
レストは今度は吃驚してぽかんとした顔つきで
エルミナータを見ていた。
エルミナータは懐から小さな手帳を取り出すとそれをじっくり眺めながら、
「この手帳にはね、この街の住民達の好物が書いてあるのよ!」
「……それで?」
「もうっ!皆まで言わせるつもりなの?」
手帳を広げ、ばーんと前へ突き出し、レストの視界に入るようにする。
その手帳には大きく
『クローリカの好物:アップルパイ・リンゴ料理!!』
と豪快なペン捌きで書かれていた!
「レスト!ずばりクローリカ狙いね!?」
ふふん!と胸を反らし自信たっぷりにそう告げてにこにこと
レストの反応を伺う。
ここで狼狽でもされたら、こちらの思うツボだ。
思いっきりからかって、話のネタにしてやる……と。
ワクワクしながら期待通りの反応を待っていると言う事だ。
しかしレストはそれを聞いても動じずまた台所の方へ行くと
冷蔵庫から何かを取り出す。
それは……。
「あっ、リラックス茶葉じゃない!」
様々な薬草や香草を幾種類もブレンドして絶妙の配合で草の効果を引き出し
その効能は、数知れない最高級茶葉だった!
「エルミナータさん。この茶葉をプレゼントしますから
それは黙って居て下さいね。」
にこっと何時もの調子で微笑みながらさり気なくエルミナータの手に茶葉を押し付ける。
「ず、図星って訳ね!このこのー、何で秘密なのよ!」
茶葉の入った紙袋に頬をすりすりとして喜びつつも、エルミナータは
まだまだ食い下がる。
それに対しレストは、うーん?と軽く考えた後こう告げるのだった。
「クローリカはあの性格だから、今何を言っても僕の気持ちは本気と受け取って貰えないだろうから。」
エルミナータは納得したようにこくこく頷く。
(確かに、クローリカは天然過ぎるわね……。)
「でも、何時かはレストの気持ちを告げるんでしょう?
それは大分先の事かもしれないけど落とす自信はあるの!?」
「落とすって言う言い方は悪いと思いますね。
自然に寄り添えあえるそんな関係が理想なので。」
「ふーん。レストらしいわ。そう言う事ならお姉さんも協力しちゃうわ!」
「協力って何を……?」
何だか嫌な予感しかしなかったが、とりあえず秘密は守ってくれそうだ。
今は、少しずつ仲良くなって相手の事を知って、毎日の日々を笑いあったり
助け合ったり他愛の無い挨拶を交わす友人でも良い。
だけど、何時かは……恋人同士として。
「あっ!」
レストは思い出したように、台所へ戻るとオーブンの方へ駆け寄り
中の様子を窺う。
程良く端に焦げ目が付いたアップルパイは、今日も美味しそうだった。
それを取り出し、用意して置いた紙の箱に入れて丁寧に包装する。
そして、クローリカが仕事をしている城内の執務室へ行くのだった。
そこでは既に先回りして居たエルミナータと、
執事が使う机の上で寝ながら器用に仕事をしているクローリカが居た!
エルミナータは紙を細く丸めてメガホンのような形にして、
すぅーっと息を吸い込んで何か言おうとしていた。
わっ、と慌ててレストがそれを止めようとしたが
予想のような大声をエルミナータは発せず何やら小声でぼそぼそと
クローリカの耳付近に吹き込んでいた!
良く聞いてみると
(貴女の事を何時も見ている人が居るわ。それに気が付いてあげて……)
「いや、幾ら寝ているとは言ってもそれは……」
レストが困惑しているとエルミナータは、これぞ睡眠学習よ!
と小声で言いながらにしし、と笑いそのまま颯爽と裏口から出て行ってしまった。
「Zzzz……はい?」
流石に気配や声がしたのでクローリカは起きたらしく
眠そうな目でこちらを見ていた。
「クローリカ。これ。何時ものだよ。」
それだけで通じるらしくクローリカは花が咲いたようにぱっと明るく笑顔を零し
「ありがとうございます~。」
と両手で丁寧にアップルパイの入った箱を受け取った。
(今は、その笑顔だけで十分……)
レストは心の中でそっとそう告げると心に暖かな物が灯るのを感じるのだった。
◆終わり◆