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ヴィーナス&ブレイブス~魔女と女神と滅びの予言~

Part5【異界に降り立ちて】

気が付くと不思議な厳かさを湛える泉の中に居た。
透き通った水は、くるぶしまでの深さしか無くそれは
泉と言うより大きな水溜りと言っても差支えが無かった。


「ここはどこかしら?」


バシャリ、と水を蹴立てて歩くと霧が晴れたその先に
「彼ら」は居た。
鎧や旅装に身を包んだ、小規模な集団だ。
彼らの姿は最初は酷く曖昧で近づくにつれて、見知らぬ顔の集団
だと言う事が分かる。
その集団の内の一人の女性が、手を差し伸べながら微笑み明るく言った。

「忍者シラハ、初代団長の名前は私も聞いて居ます。よくぞ
英霊として戻って来てくださいました」

白を基調とした清潔な僧衣に身を包んだ、神官の女性が
述べるのを聞けば、逆にシラハはきょとんとした顔をする。

「……?人違いでは?」

すると神官であり、オボロヅキ騎士団の4代目団長のオフィリアが
今度は困惑する番であった。

「……えっ?私達の事を……覚えて居ないのですか?」

イレギュラー……と言う言葉がオフィリアの頭に過ぎる。
死者の霊が舞うこの地では、過去にオボロヅキ騎士団に所属し戦った者が
黄泉の境から立ち戻って来る時があるのだ。後世の騎士団に力を貸す為に。
その筈だった。

シラハと呼ばれた忍者の女性は、頭を抱えて何か思い出そうとした。

「確かにあたしの名前はシラハよ。シラハ=ミカヅキ。それが
名前だけど……貴方達の事は全然知らないもの。初対面よ。……っつぅ!」

記憶が混濁している、記憶の中で一番新しいのは……
魔物が山ほど溢れ、手がつけられなくなって幾つもの街が魔物達に蹂躙されて
次々と瓦解して行く光景。

そうだ、あたしは……!?

「あたしは……この世界と似た世界、だけど同じでは無い世界から来たのよ」

「えっ?」

「それしか言えないわ。並行世界がもしあるとすれば、それかもしれない」

オフィリアは少し考えこみ、落ち着いた口調で告げた。

「確かに貴女は、私達の初代団長では無いわ。だって初代団長の名前はシラハ=コウヅキと言いますもの」

「やはり、ね……」

「でも苗字の違い、世界の違い等些細な事です。シラハ、貴女さえよければオボロヅキ騎士団で
一緒に戦いませんか?」

その時、また忍者シラハの頭に過ぎる不吉な記憶。
それを振り切るように、真っ直ぐに前を見据え、自分の返答を告げる。

「貴女達も、あたし達の世界のように騎士団を率いて世界を滅びから救おうとして居るのよね?
じゃあ、これも何かの縁、あたしも団員に加えて頂戴」

そう、あたしの世界はあの後魔物のせいで百年の月日を待たずに完全に滅びたのだった。
だから、魔物のせいで死んで……数奇な運命からこちらの世界で
再び蘇った。
あの失敗を二度と繰り返さないように、女神様がくださったチャンスかしら?
それとも持前の悪運で、転生みたいな事をしたのかしら。

どちらでも良い、再び世界をやり直せるのなら、あたしはここで力を振るうだけ。

新たに加えて貰ったオボロヅキ騎士団は、とても居心地が良さそうだった。

「仲間、か……」

団長として、人を率いるのと、団員として団長に指示を委ねるのと
違いはあれど、仲間が居ると言うのは本当に心強い。
こちらの世界でもおそらく居るであろう女神に感謝しつつ、シラハはオフィリアと
仲良く話しつつ、泉を後にした。

並行世界は、次々に生み出され、ある世界では見事百年を戦い抜き、
ある世界では志半ばで魔物に蹂躙されてしまう。
時には団長の命が失われた時点でその後の騎士団の活動は潰える。

もしも、その敗者になってしまった世界からの来訪者が居れば……?

その時は暖かく迎えてあげよう。

~終わり~

A-5: ようこそ!

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