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ウィンドウの上の植物

ファイアーエムブレムif二次創作小説

『炎の娘と呪い師』

皆が寝静まる頃合い、リンカはこっそりと
寝所を抜け出してキャッスル内の庭園に来て居た。
眠れないのだ、空腹過ぎて。
竹林のようになっているそこは、静かでサラサラと笹の葉が
風で擦れる音が柔らかく聞こえるばかり。
白髪のようにも見える銀の髪を右手で乱暴にがしがしと
掻き毟る。
仲間からの助言で、腹が空き過ぎた時は深夜でも
見回り担当に事情を話せば簡単な夜食を作ってくれると
言われていたが……リンカはそれをした事が無い。
何故ならリンカは炎の部族の娘だからだ。

幼い頃より、孤高を重んじろと父や周囲からしつけられてきた。
そして自分もそれが当然だと振る舞って来た。
しかしカムイの軍に所属している今は、どうも勝手が狂わせられる
場合が多い、リンカが幾ら人を遠ざけ孤高に振る舞おうとしても
周囲の仲間がひっきりなしに話しかけて来たり世話を
焼いてくれるからだ。

腹は減るのは幾ら炎の部族でも人間なのだから当然の事だったが、
その当然の事が今は何故か気恥ずかしい。

「……はぁ」

深くため息をつきながら収まらぬ腹の虫に苛立ちを
募らせる。

突然、竹の向こうに気配を感じリンカは緩く首を回して
振り向いた。
そこに居たのは高く結い上げた紫髪を黄金の簪(かんざし)で
飾り呪い師独特の装束を
来たオロチと言う仲間の女性だ。
友人と言う関係では無く、必要以上の言葉を交わした事の無い
年上の女性。

(こいつは、馴れ馴れしく世話を焼いてくるから苦手だ……)

リンカは、愛想笑い等せずに仏頂面で軽く頭を下げるだけの挨拶に留める。
一方のオロチは、リンカの姿を確認するとぱっと顔を明るくして
ニコニコと近づいて来た。

「おや、リンカも眠れないのじゃな?」

「……そうだ」

「ほほう?それはさしずめ空腹が安眠を邪魔しておるのじゃろうな?」

細い竹で出来た扇で口元をそよそよと煽ぎながら、事情は全て分かっておるのじゃ
と言わんばかりにオロチが、リンカの方を覗きこむ。

ぱっとリンカの頬は染まって少し狼狽したが

「ふ、ふん!何でもお見通しと言う訳か?分かった風な口を聞くな!私は……」

そこでぐーーーぎゅるると腹の虫が盛大に自己主張する。
更にそれを聞いてオロチは笑いを堪えながら、

「ふふふ、スズカゼから聞いた通りじゃな。リンカは常に腹を空かせておる、と。
戦えばそれだけ体内の活力を燃やすのじゃからな、空腹は恥では無いぞ。
今から一緒に夜食を食べに行くかえ?」

「嫌だ!」

即答するリンカに対し、ちょっと困った風に目を瞬かせたオロチは
次の瞬間面白い事を思いつき更に言葉を続ける。

「そうじゃな、ではわらわが食堂でこっそり『おはぎ』を作ってやろう。
ミコト様に直々に作り方を教わった特製おはぎじゃ。
小豆と砂糖ともち米があれば、作れるのじゃぞ」

「……何?」

おはぎと聞いて口の中に唾がせり上がって来たが、やはりぐっとそれに耐えて
努めて平静を装うリンカ。

「もち米を炊く所から始めるから少々時間はかかるのじゃがな?」

「……」

「どうじゃ?」

「時間がかかるなら行かないぞ、それだったら近場で狩りと採取をして
腹を満たす!」

取りつく島も無い態度と共にリンカは踵を返し向こうへ去ろうとして居る。

(何とも、強情じゃのう。そう言えば……一発これを試してみるかの!)

袖の下から、呪い札の一つを取り出すと駆け寄って背中にぺたりとそれを
貼り付けた!

「うわっ、今何をやった!?勝手な事をするな。……ん?んん!?」

炎のような形の呪印が書かれたそれは、リンカにある変化を
もたらした。

「何だ?空腹が一気に収まった。それに、何だ。この身体の底から出て来る活力は!」

「ふふふ、これはわらわ特製の呪い札でまだ作成するのに試行錯誤中じゃが戦場で腹が空いた時に
空腹を感じるのを止める作用と、追加で白米3杯分を食べた事に匹敵する
活力(エネルギー)が得られるのじゃ。どうじゃ?」

「人を勝手に実験台にするな!だが、悪くない。これなら今から武器の素振りをしてその後
ぐっすり眠れそうだ」

「呪術の力とは不可能を可能にする物じゃ。困り事もご覧の通り!っておーい。
聞いておるか?」

リンカは、スタスタとそのまま素振りをする為に広場の方へ向かって行ってしまった。
それでも、背中ごしに手を軽く上げて「その、なんだ。……ありがとう」と
しっかりお礼の言葉は言っていたが。


その後日談として、呪い札の副作用としてリンカは腰痛に二日間悩まされると言う
事態になりオロチは更なる呪い札の精度を求めて、作成に時間を費やしたと言う。

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