
ファイアーエムブレムif二次創作小説
『執事、誕生』Part2
木々の間からこっそり窺って居た二人の目の前に丁度おあつらえ向きに
腐肉の香りと共にでっぷりと太った醜い巨体が歩いて居た。
数はどうやら一匹。大人二人分程の大きさの巨躯と一目で人外と分かる程の
嫌悪感を感じさせる風貌。彼らは何度も秘境の村を襲った事があり
その度にカムイ達の軍に撃退されて居た。
「ほ、本当に二人だけで大丈夫かな……」
ミドリコは無意識にグレイの服の裾をぎゅっと掴むと
不安そうにそう言った。
「問題無いさ。いざとなったら俺がミドリコを守るしな」
「えっ、……嬉しい」
ちょっとだけ頬を赤らめたミドリコだったがノスフェラトゥの動きを
注視していたグレイからはその表情は見えて居なかった。
「じゃあミドリコ、前門の虎後門の狼作戦だぜ!」
「うんっ!」
前門後門作戦、即ち二人が一組になって陣を組む形で
前衛が攻撃を仕掛け、それを後衛が補佐し敵からの攻撃が来ればそれをガードする戦法だ。
一匹だけなら問題無いだろう、とその考えはお菓子のように甘すぎたのだが
まだ若い二人は戦闘経験も少ないが為に慢心、油断をしていた。
隠れるようにしていた木々から飛び出すと、
グレイが左腕を真っ直ぐに伸ばしひとさし指を突き出してそれで招くようにしながら
ノスフェラトゥを挑発する。
その後ろでミドリコは和弓を構えて居た。
直ぐに、その二人に気づいた魔物は顔に取り付けられた穴だらけの仮面の下から
ふごォォォ、とくぐもった唸り声を出すと直ぐに大きくて太い腕を
ぐるぐると振り回し戦いの準備に入る。
しかしその動きは巨体に見合った物で酷く鈍重だ。
「遅い、遅すぎるぜ!」
暗器をスラリと取り出せば、それを手裏剣を投げる要領で前方へと
投げつけて醜い腹に刺すようにする。
投げるのにも適した形状で軽量のそれは狙い違わず
ノスフェラトゥの分厚い肉
に突き刺さる。
『うがァァァァ!』
腹から緑の体液を振りまきつつ怒り狂う魔物。
「おっと、まだだぜ!」
「ミドリコも行くよ?」
ミドリコが弓につがえた矢を解き放つとビュン!と小気味が良い
風斬り音を立てながら矢が目の近くへと突き刺さる!
その間に、グレイは手を器用に動かしながら暗器にあらかじめ
仕掛けてあった鋼の糸(ワイヤー)
を手繰り寄せ再び暗器を手元へと引き戻した。
『ぐ、ぐォォォォーーー!!!!』
森中へと響き渡るような物凄い雄叫びを上げるノスフェラトゥ。
まだ体力は残っているらしくよたよたとしながらも平然と立って居た。
「ま、まだトドメを刺せてないっ?」
「よし、もう一撃!」
じゃらりと刃をスライドさせて今度は近距離を掠めるように接近して
首でも凪ごうとグレイが駆け寄った時、ミドリコが異変を感じ
きょろきょろとし始めた。
ド、ドドドドドド……
地面が揺れる。
見ると、何処にこんな数が居たのかと呆れるぐらい
森の木々の間にノスフェラトゥが集まって来て居た。
その数、十五以上……
「やばいな!」
流石のグレイも行き成りの状況悪化に気が付くと足を止め
ミドリコの方へと一足飛びに後方ジャンプし
そして暗器を背中に戻すと従妹の手を握るようにして差し延ばした。
その手をしっかり握ると、意図が伝わったのかミドリコもこくりと
軽く頷く!
「逃げろっ!」
二人は全力で、一目散に木の幹に足を置き器用に駆け上がると
木の枝から枝へとジャンプしながら後退して行った。後ろでノスフェラトゥが怒りながら木々をへし折る音が聞こえた。
そしてようやく、秘境の出口近くまで来ると後ろを振り返る。
……追って来てない。否、正確には追いきれて無い。
ほっと、二人は一息付くと出口にすっと入っていった。
たちまち体が、浮き上がるような感覚と共に、キャッスルのある時空と空間へ
『繋がった』
キャッスルに戻ると、秘境へと繋がる入口付近で仲間の皆が
集まって居た。
「おい、今から探しに行くかと捜索隊を集めた所だ」
サイゾウが、ぶっきらぼうな口調でそう言い捨てた。
「ご、ごめんなさい~~~」
ミドリコが涙を零しながら謝る様子を見て
グレイは父への反発心から
「ふん、ちょっと散歩に行ってただけだ!」
そう言い、余裕そうな表情で立って居た。
その髪の毛や服のいたるところに葉っぱや小枝が
挟まっては居たが。
「お前達の身勝手な行動のせいで……!」
サイゾウが、手を上げてグレイの頬に平手打ちを仕掛けようとしたその時、
群衆の中からカムイが進み出るとその手を掴んで止めさせた。
「無事に戻ったんだから、手を上げる事は無いだろう。
二人ともよく帰って来てくれた」
優しい声色で、カムイがそう言うとその懐へと
ミドリコが飛び込んで行きがしっと胴体に腕を回すと
うわぁぁーと泣き始めた。
(ミドリコを怖い目に遭わせちまったな)
ミドリコを守る自信はあったが、あの状況はかなり
やばかった。
地形が森で無かったら今頃は……とグレイは心の中で反省した。
「カムイ、黙って秘境に行ってすまなかった。
ミドリコ、それに父さんも」
軽く頭を下げるようにすると、カムイは静かに微笑んでいた。
そしてサイゾウは、その様子を見てちっと舌打ちをするとそのまま歩き去って行く。
「はわわわーーーーっ!グ、グレイ~~~!」
そこへ銀のトレイの上の皿に載せたジャムタルトらしき物を持ったフェリシアが
涙目で駆け寄って来た。
そして、盛大に何かに躓いてこけた。
宙に浮き無残に地面へと激突するかと思われたタルト!と砕け散るかと思われた皿!
しかしグレイの方が一瞬だけ早く行動して居た!
「よっと!」
素早く皿を掴み、それをくるくると回すように回転させながら
すかさず移動、地面すれすれに迫るのを見ながらしゃがみ込み
タルトを皿で受け止めた!
「食べ物を粗末にするのは、特に甘い物の場合は
幾ら母さんでも許せないぜ」
そして立ち上がり、皿をきちんと右手で持つと執事らしく
優雅にお辞儀をした。
「お~~っ!」
ミドリコが、カムイの側で真ん丸に目を見開いてその後ぱちぱちと
拍手を送る。群衆達も暖かい拍手を送っていた。
「母さん、立ち上がれるか?」
フェリシアに手を貸すと、目に涙を溜めた母にグレイはぎゅっと抱きしめられた。
「もう子供じゃないんだからな!ミドリコ、向こうでタルトを食べような」
「うん!」
何事も無かったように、二人は仲良く建物の方へと歩く。
「ま、待って下さ~~い、私も!」
フェリシアが慌てて追いかけて行き、群衆は徐々に解散して行き
キャッスルはまた何時も通りの平穏を取り戻すのであった。
◆終わり◆