
Ever Oasis
*闘技大会*Part4
メロダクは、直ぐに突っ込んでは来ずに素早くステップを踏み後ろへ下がる。
それから剣を構えるとじっとこちらの懐へと潜り込む時期を見計らっているようだ。
テテも慎重な物でこちらからは積極的に仕掛けず、先ずは
相手に懐に潜り込まれないように油断無く構えていた。
心地よい緊張が走る中、メロダクが先に動く!
ジグザグに、まるで舞い踊るかのように軽いステップを踏むと
一気に間合いを詰めて来た!
テテも、同時に動き相手の剣が到達する前に剣で凪ぐようにして
足元を狙う。
ぴょーーーん、とメロダクが高く高く上へと跳ねた。
その後、2刀を突き出しテテを強襲する。
時間差で飛んで来た2刀をがっちりと剣で払い
後ろへと空中で一回転して着地したメロダクへの追撃の一振りをテテが放つ。
「やぁっ!」
「……!」
メロダクへの葉っぱの剣による一撃は、交差させた2刀に受け止められ
体へと届かない!
ぎりぎりと鍔迫り合いのようになると、力では互角のようだが
軽量級のメロダクの方がやや押されていた。
テテはそのままじりじりと相手を下がらせ、武舞台の外にまで押し出そうとしたが
それは叶わずメロダクは今度は2刀の剣と剣の間にテテの模造刀を挟み込んで
奪おうとした!テテはわざと自分の剣を取られる形を取るが
それは作戦で挟んだ状態でそのまま自分の頭上を越えて放り投げられる剣を咄嗟にジャンプして掴み取ると
空中から落下の速度ごと強烈な捻りを加えた一撃を食らわせる!
メロダクの方もそれを受け止めるべく踏ん張って、2刀で受け止めるが
あまりにも力強い攻撃だったのでズザザザザーーーッと
武舞台の外まで下がってしまった。
ただ、ルールによると出ただけでは即負けにはならない。
まだまだ、と歯を食いしばって戻ろうとした直後武舞台の淵まで
進んで来たテテが柔らかい表情を伴って
つ、とメロダクに対して手を差し伸べる。
「おいっ!」
今は勝負の途中だ、と言いかけてそれでもテテの小さな手を
取り武舞台の上へと引っ張り上げて貰った。
そして改めて自分の体勢を見ると、テテの剣が首に触れるか
触れない所にある事を気が付く。
つまり、自分はテテの間合いの中に居て、簡単に切られる位置に居る。
「ボクの負けだ」
あっさりと自分の負けを認めたメロダクは、爽やかな顔で
優勝者のテテに笑いかける。
元来、リコス族は小さな事でくよくよせずにさっぱりと
物事を受け入れるのだ。
「おおーーっと!?テテさん!優勝者はテテさんです!!」
審判が、テテの腕を掴んで持ち上げ高く上へと掲げると観客席は湧きに沸いた。
まるでお祭りのような熱狂の中で、こうして闘技大会は終わりを告げるのだった。
「テテさんの剣の技、すごかったねぇ。」
「でも、メロダクさんの2刀流もかっこよかったわ。」
「優勝賞品は何だろう?ドキドキするー!」
闘技場の感想やらをその場に居る者が口々に言う中、表彰式が行われる。
この砂漠地帯では、緑は貴重な筈だが、どこから調達したのか、
小さな白い花で出来た
冠がテテの頭にゆっくりとかけられる。
表彰式の進行を任されて居るのは、リコス族の長だ。
「優勝おめでとう。一位のテテさんにはとっておきのリコス族の壁画を
今からお見せしましょう!付いて来て。」
そして案内されるのは、武舞台の設置場所から少し離れた箇所で
洞窟内の最も深部だ。
リコス族の長がテテの前を歩き、手に持ったランプ草を
軽く揺らし火を灯し上へと掲げる。
そこにはほぼ完成済みの壁画が壁一面に書かれてあった。
石の壁に、リコス族、そしてセルケ族、ウア族、タネビトの
四つの種族らしき者が手を取り合って
歩んでいる。その中央には、テテのオアシスの要である水の精霊イスナの
大きな体が描かれていた。
「凄いね!これを描くのに時間がかかったのでは?」
「そうだな。四年はかかった。それでも、満足の行く出来さ。」
良く見ると、上の方に標準語で何かが書いてあった。
『ここに4つの種族あり。それを守護し、見守る精霊の加護あり。
再びカオスが、地に満ちる時平和はいともたやすく壊れる物。
4つの種族が手を取り合って争いをせぬよう、動くべし』
「そっか、リコス族のみんなは平和を求めて居るんだね。
この壁の文字が現実になるように、私も協力させて欲しいな!」
テテが朗らかに微笑みながらリコス族の長を振り返る。
長は、うんうんと何度も頷き信頼の篭った眼差しでテテを覗き込む。
後ろから、メロダクが走って来て告げる言葉は。
「おーい。今から盛大にご馳走を振る舞うぞ!今日の主役のテテさんが
居ない事には始まらない。急いで武舞台の所に来てくれよー。」
少々騒がしいとも取れるメロダクの言動だったが、テテも長も嫌な顔も
せず、壁画を後にその場を離れて移動する。
武舞台があった所には、青い絨毯が敷かれており、
後から後から引っ切り無しに
リコス族達が石で出来た皿の上に乗せた食事を運んで来る。
砂漠では、食料は調達し難い物だ。
それでも、精一杯のもてなしとばかりに
所狭しと並べられた食事の数々に、参加者と観客は大きく目を見開き
歓声を上げていた!
「テテさん、中央に!」
テテは、特等席に座ると皆に笑いかけ食事を始めるのである。
宴は、長く続き空が夕闇に染まるまでおおいに食べ、おおいに飲み
大盛況の内にお開きとなった。
(平和、かぁ。)
テテはふと、リコス族の描いた壁画を思い出していた。
種族や考え方が違えば争いが起こりやすい。
事実、4つの種族が酷く憎み合い争っていた時期があった
と言うような古代人の記録がある。
争いをせぬよう、動くべし。
テテは、オアシスの仲間の事を思い返す。
種族と言う枠を越えて集まってくれた大切な仲間達。
彼等がこれからも平穏無事に過ごすには、時々侵食して来るカオスに
対抗しなくてはならない。
それはオアシスの長たる自分にしか出来ない事だ。
テテは、アクアゲートに体を滑り込ませ、水流に乗って
心地よい浮遊感を感じながら
オアシスへと一気に移動して行く。
数分の後にオアシスに設置してあるアクアゲートの門を潜り
テテは戻って来た。
空には、気の早い一番星が小さく瞬いて居た。
「おかえり!テテ!」「おかえりなさい。」
道行く仲間達が彼女に気が付き一斉に声を掛けてくれた。
End