
Ever Oasis
*永遠の…*
その時、私の意識は酷く鮮烈な色彩を
伴って目覚めた。
私は既に、死んだ筈では……あの時。確かに。
しかし目の前には『妹』が居たのです。
妹は、見知らぬ仲間を伴って必死に戦っていた。
私の意識とは裏腹に、私の意識と融合したそれは
縦横無尽に飛び回り、存分に翻弄し、そして真っ黒のドス黒い
塊を吐き出していた。
(黒竜……)
それは、かつて私のオアシスを襲った相手でした。
カオスの総意とも言える物が寄り集まり、固まって膨れ上がり
延々と怨嗟と憎しみを体内に巡らしていた。
カオスは、悪では無い。そして善でも無い。
あの時の私は、カオスとは何かを分かって居なかった。
今ならはっきりと分かる、
強いて言うならば……ヒトの心に必ずある『負の感情』なのだと。
私にも在ったかも知れない感情、しかしそれは顕在化せず
死体となった私を黒竜が依代として利用した。
妹を、テテを兄の姿で惑わす為に?
……それは、今となっては分からない、知るすべも無い。
妹は、暫く見ない間に酷く強くなっていた。
肉体の強さだけでは無い、芯の強さのような物……
はっきりとした意志がそこにはあった。
迷い等微塵もなく、私と融合してしまった黒竜を、カオスの総意を
倒すのだろう。そして気にかかるのは、テテには水の精霊の加護が付いていると言う事。
どれ程時間が経ったのか。
それは不意に訪れた。
しっかりと前へと突き出したテテの剣が、黒竜に最後の一撃を加えたのだ。
狭い洞窟の天井を突き破り、たまらず黒竜はオアシスの上空へと飛び出した。
黒竜の成そうとする事は、何故か酷くはっきりと分かった。
彼は、己の道連れにオアシスを潰そうと……
黒竜の胸の核から私は下の光景を見た。
そこには、立ち並ぶ多くの店と虹色の光に包まれ水飛沫を上げる噴水と、そして
人々の営みがあった。
往来を歩くセルケ族の男が吃驚して口をぽかんと開けたままこちらを
見て居た。
私は彼らを助けたい、テテが作ったであろうこのオアシスを
護りたい……しかし何も手段が……
ふいに、とてもとても大きいサイズとなった水の精霊が宙に浮かび上がって来た。
大樹の子は、水の精霊の意志を汲み協力しあって、この砂漠に憩いの場を作るのが使命。
この水の精霊の少女はテテの良きパートナーなのだろう。
何か口を動かして言っているようだが、私には何も聞こえなかった。
ただ、その言葉を受けて黒竜は酷く動揺し存在が希薄になる……
最後に精霊は微笑み、全てを包み込むように手を広げる!
その時黒竜の酷く安らかな気持ちがこちらに伝わって来た。
精霊と、カオスと。両方の存在が、空に溶けそして何事も無かったように
平穏が戻る。
カオスが無くなると同時に、私の存在と意志も希薄になっていった。
もう一度私は下界を見た。
広く、美しい緑豊かなオアシス。
かつて私が作ったオアシスよりも数段豊かなオアシス。
もう思い残す事は無いな、最後にこれを見られたのだから。
Ever Oasis(永遠の……)
貴方は、守るべき地と守るべき仲間を見つけたんですね。
それを誇りに思……
そして……私の意志は、無になった。
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「おい、あれ見ろよ!」
最初に異変に気が付いたのはハナミセの入口のドアから首だけ出したタネビトの青年だった。
空にもくもくと大きな雲が広がり、ポツ……ポツ……と
降り始めた。
永遠に渇き、永劫にヒトを蝕むこの大地に雨が滝のように降り始める。
やがて、一人二人とオアシスの住人が異変に気が付きオアシスの入口に集まって来た。
彼ら彼女らが見た物……それはオアシスを中心にして徐々に広がっていく緑だった。
ポン!ポンポンポンと弾けるような音を立てて砂漠の地面から緑色の植物の芽が
吹き出る。雨がそこへ降り続ける。
そして……緑の絨毯は、瞬く間に大地の全てへと広がって行った。
~終わり~