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アガレスト戦記Mariage


アガレスト戦記Mariage 二次創作小説
Ψ虹を架ける者Ψ

賢(さか)しき愚者の塔、その最深部。
目の前には巨大な魔物の黒い影がどっしりと立ち塞がって居る。
慨嘆のエギーユと魔神が名付けたそれは
黒く禍々しい翼を広げ、禍々しい気を発して居る巨体を宙に浮かし天井高くから
襲って来る!
立ち向かうは、勇者一行。
女勇者シエラを筆頭に、聖尼僧(プリエステス)
のジオレット、
イーリス島の侍、彩華、呪術師ピアディナだ。
四人のパーティーは、勇ましく立ち向かって行く。
シエラが勇者の剣であり宝珠が、はめ込まれた虹の剣を
一振りすると、炎が巻き起こり、
エギーユに向かって真っすぐに炎風が走って行く!
ジオレットが、聖杖を振り清らかな光を呼び起こし
細かく傷を治して行く!
エギーユが振るった鉤爪が乙女達の
衣を引き裂く前に、防御の構えを取って
居た彩華が素早く前に出て己の刀で
攻撃を受け流す!
ピアディナが、神秘の魔法陣を描けばそこから
生み出された精霊が、パーティー全員に加護を
与える!対峙する事数十分。

「ぐ、ぎぎぎぎぎイ!」

たまらず、エギーユはバラバラで散り散りになって
霧散した。

「やった!勝った。最後の宝珠は……!?」

「あそこだ!光ってるよ」

シエラが、目を凝らし探していると、視力の一番良いジオレットが
岩のようにゴツゴツとして居る壁部分の近くに埋まって居る
宝珠を見つけ出す。

駆け寄るシエラは、前方に虹の剣を
掲げると、それに呼応するかのように
宝珠が吸い寄せられ、六つ目のスロットに
はめ込まれた。

途端に、シエラの中に父と母の在りし日の記憶が流れ込んで来る。
――暖かく優しい父母の気持ち、そして自分を慈しんでくれた
その想いを暖かく受け取る。

『シエラ、なかなか泣き止まなかったよ。最後は、薫華が泣きそうになっちゃった』
『赤ちゃんは、親の気持ちを鏡のように映すと言うからな。もう寝たのか?』
『今は揺り籠の中でぐっすり眠ってる。寝顔を見て居るとね。何だか心がぽかぽかぁってして来るんだよ?』
『ははっ、俺もシエラの寝顔を見に行って来る』
『薫華も一緒に見に行くのだ~♪』

会った事も無い、両親の顔は何故か懐かしく思えた。歴代の勇者。
パパのパパ。パパのパパのパパ。そして彼らを支えた乙女達全ての記憶と能力が
ここに在る。

――今、あたし

は完全な勇者になれたんだね。


「勇者ちゃん?泣いている……?」

ピアディナが横から赤い瞳を向けて来た。
そっと手を握るようにして、右手を差し延ばし心配そうに覗き込む。

「ん、大丈夫!これは嬉し涙だよ」

暖かくほっこりとした感情は、目から次々と零れ落ちる涙に化身して行く。

勇者継承の儀式の前日に魔神自身が勇者の家を襲撃した事で――
『完全な』継承は出来ず、今に至るまで勇者としての本当の力を手に入れる
事は出来なかった。それがどんなに悔しくて歯がゆくても、
今の自分を受け入れるしかない――。
謂わば劣等生のような気持ちでシエラは、旅立った。
だけど、そんな劣等感にも似た気持ちも、周囲の姫神の乙女達や
育ての親――ドーズやキュプラ達のおかげで
どんどん消えて来て今では、こうして宝珠を全て集める事が出来た。
一人じゃない。不完全なあたしを勇者として
認め支えてくれた、希望を託してくれた全ての人達が
ここまでたどり着かせてくれたんだ!

「何?それで一人前になったと錯覚してるの?ギャハハハハハッ、ださっ!」

背後から聞こえてくるのは仲間の声じゃない。
この世界を危機に晒している魔神その物の声だ。
振り向くと彼女の幻影が、エギーユが居た辺りの上に浮かんで居た。

姫神の乙女達三人は、厳しい目を魔神に向け仲間を守るように
前へと立ち塞がる。

その後ろでは、キュプラとそしてドーズ、ティタニアと言った戦えない
面々が、庇われて居た。

「まったくお笑いだよ。ようやく勇者としてのスタート地点に立てただけだと
言うのにね……で、何?そんなに睨まないでよ。
ボクはそれなりに君達に同情をしてるんだよ?」

肩までの紫に近い赤色の髪を揺らし、黒を基調とし体にピッタリとした
衣装を纏った魔神の少女はニィィィッと唇を歪めた。

「だぁーって、君達勇者と乙女は女神の作り出した魔神打倒システムの
歯車なんだからね!ギャッハハハハハハ!」

「……!」

シエラは軽く俯く。彼女の中には、勇者の、父レインの記憶がある。
そして、父もこの魔神の呪詛――悪しき言霊に最終的に打ち勝ったのだ。
母である薫華の助けもあって、だ。

「使い捨ての部品の気持ちはどうだい?幾らでも替えが効いて
最後は子供に力の全てを託し、ボロ雑巾のように死んで行くんだ!
そんな生に何の意味がある?いっその事、生まれて来なければ良かったんだよッ!」

魔神が最後の言葉を言い終わる前に、シエラは
真っ直ぐに顔を前へと向けて、
母親譲りのパステルグリーンの瞳を燃え上がらせて
言い放つ!

「魔神エクリプス!その言葉、パパにも言ったよね?
パパの記憶がある今のあたしにそれは通用しないよっ。
あたし達が歯車の一部である事は否定しない。
むしろ真実に近い、と思うよ。でもっ。生まれて来なければ良かった、
と言う貴女の言葉は絶対に違う!」

「何処が違うってんだよ。クソ勇者?」

「人は、迷いながらも自分の生を生き抜いて行く。
そこには悲しみもあるかもしれない。苦しみもあるかもしれない。
でも楽しい事だって、嬉しい事だって同じだけあるんだよ。
少なくともあたしは、――あたし達は生まれて来て良かったと思ってる。
例え部品でも、日々色んな感情と隣り合わせで――
生きる事は楽しいよっ。
ね、そうでしょ?ジオレット。彩華、ピア!」

三人の乙女達は、魔神エクリプスの言葉が余程響いたのか、
浮かない顔をして居たが、勇者の言葉にはっとなり
我に返るとそうだ、と皆頷く。

「そうだよね!勇者さまと同じ気持ちだよ!」
「私は生きる事に絶望していません。むしろ今生きてここに居る事が至上の喜びなんです」
「生まれて来て良かった……そんなの、当たり前。魔神って……馬鹿?」

ジオレットが何時もの覇気を取り戻しながら、しっかりとした
口調で叫び金髪のポニーテールを揺らした。
彩華は、真面目な顔を崩さず、真正面から魔神エクリプスを睨み付ける。
ピアディナに至っては、クールな振る舞いでさりげなく魔神を馬鹿呼ばわり
して居た。
大丈夫、何時もの彼女達だ。

「――ふん。ボクの呪詛が通用しなかったんだ。先代の勇者レインはあれ程
簡単に嵌ってくれたのにね。あーあ。君ら、つまんないよ。ボク、帰る!」

魔神エクリプスの幻影は徐々に薄くなり、その場の緊張が解けて
安心したキュプラがふぅぅ~と床にへたり込む。
ドーズもある程度緊張して、シエラ達の言動を見守っていたが
シエラに呪詛が通らなかった事に内心誇らしく思って居た。
あれしきの事でうちのシエラが、打ちのめされるハズがないのじゃ、と。
ダークエルフのティタニアは、配下のオークに守られて
一番後ろで経緯を見守っていたが、魔神の幻影の放つ悪しきオーラの残り香に
気圧されて居るのかちょっと、及び腰になって居た。

シエラが、六つの宝珠が嵌った虹の剣を鞘へと戻すと
その周囲に乙女達が集まって来る。

「……勇者ちゃん、かっこ良かったよ?」

ピアディナが、真っ先にシエラをねぎらう。

「勇者さまっ、ここに懺悔しちゃうけどね。実は魔神の言葉で心が揺れ動いちゃって。あはは……」

明るいジオレットが、照れくさそうに、告げれば側の彩華も、釣られて

「もし、シエラが魔神の言葉に屈して囚われてしまったら……と心配しましたが
見直しました。それと、私もジオレットと同じ気持ちでしたね」

「あははっ♪みんなありがとう。そして大丈夫だよ。
少し揺れ動いたとしても、きっと呪詛を破って立ち直れる。
あたし達にはそれだけの強さがあるから――
この世界のみんなの想い、みんなの祈り。
それがある限り進み続けようっ!
だから、もう少しだけ力を貸してね。

全ての人が、涙を流さない世界を取り戻すために――」


シエラは、右腕を前へと突き出すと、元気良く叫んだ。

「行こうっ!!!」

――魔神エクリプスの本体が居る居城まで後少し。











~終わり~

AA-4: ようこそ!

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