
ヴィーナス&ブレイブス ~魔女と女神と滅びの予言~
Part2【強者復活】
アインスワース騎士団の第4代団長、若きアーチャーの
ユーシス=イングローダは
王都ヴァレイの酒場に居た。
酒を飲む為か?仲間と語らう為か?
否、そのどちらでも無くただ情報を集める為に酒場の主人の前で
真面目に座って耳を傾けて居るのであった。
酒場の主人は、情報通で有名な男だ。
ありとあらゆる地域から人が集まるここ王都では
情報がひっきり無しに入ってくるのも頷けると言う物だ。
多少、薄くなった頭髪とでっぷりと突き出た腹の主人を前にして
ユーシスは巧みに情報を聞き出し、その見返りに
幾ばくかのチップ……コインを握らせる。
今日の収穫は、と言うと……
「なるほど、カルランの街で妖精の道が現れそこに何者かの霊が
集まっているのを住人が目撃したんだね。ありがとう、おやっさん。
早速行ってみるよ。」
柔和な顔立ちをした金髪のエルフ風貌の青年は、満足の行くだけの量の情報を掴むと
愛想よく笑っては騎士団本部に引き返すのだ。その後姿を見ながら、酒場の親父は黙ってにやりと
笑いながら心の中でアインスワース騎士団の活躍を願う。
何しろ、町を滅ぼさんと湧き出る巨大な魔物と今マトモに戦えるのは
アインスワース騎士団のみなのだから。
「みんな、次の目的地はカルランだ。そこで死者の霊が集まっていると聞くよ。
もしかしたら……懐かしい人に逢えるかも知れない。」
騎士団本部の一室、作戦会議場でユーシスは
椅子に座り机を囲んでいる団員達に
そう告げるのだった。
かくして、一向は一路カルランの街を目指して出立するのである。
道中、盗賊団に襲われたりもしたが距離的に近い事もあってそれ程日数も
かからない内に彼らは、街に着く事となる。
到着した頃には、日は傾き寒々しい風と雨が
降りそうな予兆を見せる湿った空気が
ユーシス達を包んでいた。
「情報によると、ここら辺の筈だけどね。……ん?」
丁度街外れの墓地が並ぶ場所、近くに泉も見える……その場所で
何やら薄ぼんやりと光る物があった。
浅い泉の中心に緑と青が混じったような光源が幻想的にきらきらと輝く。
その周囲には、白い人魂のような布切れにも見える透明な物体が
幾つも幾つも浮遊していた。
「……!?」
その一つがこちらへとぐんぐんと向かってくる!
ユーシスは、仲間を代表して進み出ると人魂の一つに語り掛ける。
「勇敢なる英霊。僕達に再び力を貸して欲しい。さぁ、こちらの世界へ。
現世へ舞い戻ってくれ!勇者の魂よ。」
その力強い声に呼応するかのように魂が、叙々に形を変え人の姿を為す……
白く透き通った光が、黒き鉄の鎧へと姿を変える。
泉の水を靴で蹴立てて、くるぶしまで水に浸かった
全身黒い甲冑に身を包んだ
長身の騎士が大きな戦斧を手に歩いて来る!
顔は、フルフェイスの兜故に表情の判別は付かない。
だが、その重厚な出で立ちから一目で「魔騎士」の男である事が分かる。
そして彼が口を開くとその名前まで自然と浮かんで来るのだ。
「久しいな、小僧。私だ。ペリドゥだ。
かつて共に戦いそして一度寿命を全うした筈だったが
精霊の長か女神かは或いは悪魔かの何れかの仕業か知らぬが運命の不思議な采配でこうしてここに居る。
……再び騎士団の皆と共に戦わせてくれぬか?腕が鳴って仕方が無いのだ。
この身、朽ち果てるまで我が斧を
振るい皆を守ると約束しよう。」
若い男の程良く低い声が兜の下から聞こえて、ユーシスの耳に届く。
それは紛れも無くかつての戦友ペリドゥその人を表す物である。
百戦錬磨と謳われた魔騎士と言う職業に就いたその男の静かな決意。
ユーシスは柔らかく微笑み、そして腕を広げながら
彼に対し歓迎の意思を示すのだ。
「勿論だよ。ペリドゥ。
戦おう。明日の為、
未来の為に力を合わせてさ。
さぁ、行こう。」
手を差し伸ばし、ペリドゥとしっかりと握手をすると
改めて騎士団の皆の方へと向き直る。
騎士団の面々の中には、ペリドゥの息子と娘も居た。
息子達は、自分より若い父親の姿を
見て驚きを隠せずまた嬉しさも混ざって何とも複雑そうな表情を見せていた。
だが、それもまた共に戦う内に馴れて行き
あるがままの「今」を現実として受け入れるのだろう。
アインスワース騎士団は、強く頼もしい仲間を加えて確実に進んで行く。
100年の猶予まであと少し。
これは世界を救う為に集った勇者達の小さな一つのエピソード。
<終わり>