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大正もののけ異聞録

創作小説其の五  第二節
【シュテンと八雲編~商売繁盛!~の巻】

にこにこと屈託無く笑うシュテンに、子供は
警戒心がなくなったのか、笑顔になって言葉を返す。

 「わかってくれたらいいのさ。じゃ、見回りもしたし
そろそろ家へ帰るよ!またな。」

「またねー。」

 
子供を見送った後、シュテンは腰に吊り下げていた
酒瓶を傾けると、直に口をつけて飲んだ。
ぐびぐびと喉を鳴らして美味そうに

飲み終え、ぷはぁと息を付くと、
頬を朱色に染めて早くもお天道様が高い内に
完全な酔っ払いの出来上がりと言った風情である。
やがて夕刻近く、仕事を終えた八雲が再び様子を見に来た。

シュテンはと言うと、またもや居眠りである。

 「あのーシュテンさん?」

 再び名前を呼ばれて小さな眼をぱちっと開けて
八雲の姿を確認する。
シュテンは、しっかりと眼を覚まし
体を起こすと元気よく言った。

 「じゃあ一緒にババ様の所へ行くんだなー。」

 
小樽から変生ババのところまでは距離がある。
だが、夜になるまで歩くとようやくババ様の所に到着した一行であった。

山奥の、一軒家。
そこは変生を行う事の出来る山姥こと、ババ様の
屋敷である。

シュテンは、今度店を開く旨を
伝えると、ババ様から熱心に商売の秘訣を聞く。
持ってきた袋の内から紙と筆を取り出すと
モノノケの文字でさらりと言葉を文字にして
書き留めて行く。

八雲は、共に戦うモノノケ達と一緒に待っていた。
八雲の伴をしていたコダマが、緑の髪の毛をそよ、と揺らして
夜風に気持ちよさそうに当たっている。
ライジュウは、と言うとビリビリと相変わらず電気を纏いながら
屋敷の土間で犬のように転がっている。
そして、テングはふぅむ…うむむ…と唸りながら
自慢のヤツデで出来た団扇(うちわ)の手入れをしていた。
最後に、キュウビは妖艶な目つきで鏡を覗き込み
熱心に笑顔の練習をしていた。おそらく異性を虜に
する為の修練か何かであろう。

 やがて。

シュテンは得心が言ったという風に満足げに頷き
ババ様に深く一礼して礼を言った。
そしてここに来るまでに店で買っておいた
新鮮で大きな干し魚を一匹丸ごと袋から出して
どん、と目の前に置く。

 「これは、お礼なんだなー。ババ様有難う、なんだな。」

「いやいや、お安い御用だよ。商売、頑張るんだよ。」

 
ババ様は、機嫌よくそう言うと、去っていく
シュテン、八雲、モノノケ達を玄関まで見送った。

 
空には星。

山の上には白い月が、出ており夜道も怖くない。
だけど、人間が闇を恐れるのは世の必定。
その闇の中にはモノノケが潜んでいる、と
人間は信じているからだ。
だから良い子にしないとモノノケに連れて行かれてしまうよ、
と今頃は子供を寝かす母親が枕元で
そう言っている頃合かもしれない。
モノノケは闇に生きるが定め、静寂と闇の
部分が払われつつある
大正の世…モノノケの住処は追いやられ少なくなっている。

それでも、彼らは逞しく生きる。

~終わり~



 


 


 





5-2: ようこそ!

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